SABJ 教師用: ビジネス日本語クラスの指導要綱

Instructor's Guide to Teaching Business Japanese

 

ファクトの先生へ:

ジョージアテックで行なっているビジネス日本語のクラスは A Systematic Approach to Business Japaneseを教科書として使用し、「ファクト」と呼ばれる文法の説明の時間と「アクト」と呼ばれるオーラルドリルの時間に分かれています。時間配分はファクト1コマに対して、オーラル3コマという比率で行います。ファクトのクラスではできるだけ日本語を使い(複雑な部分や、文法用語は英語を使います)、次のオーラルクラス3コマに必要な文法事項を説明します。基本的には学生は、先に教科書を読んで文法の概要はつかめている(はずな)ので、ファクトのクラスでは大枠を説明して、あとは具体的な用例を出したり、まちがいやすいところを指摘したり、学生に質問したりすることも可能です。

アクトの先生へ:

アクトのクラスは、質問や指示もふくめて基本的にはすべて日本語で行います。「アクト」は「ファクト」で説明された文法事項を実際の状況の中で使ってみる時間です。できるだけ現実起こりそうな場面を設定して、その中で目的の表現を使わせるようにします。アクトのクラス中は学生は教科書を開いてはいけません。

文法の説明は終わっているので、アクトの時間内に文法の説明は一切行いません。アクトのクラスでは、たとえ学生が分からなくても、文法の説明を始めることは絶対に避けてください。どうしても、分からない場合は「これは次のファクトのクラスで聞いてください」と言って下さい。

1.

クラス全般について

 

話すスピードは普段とほぼ同じスピードでお願いします。分からないだろうからと普通よりゆっくり話すことは避けてください。聞き取れなかった質問をくり返すことはかまいませんが、繰り返すことが習慣にならないようにして下さい(何度も繰り返すと、一回目の質問をあまり聞かないくせがつく学生もいます)。反応のおそい学生もいますので、そのような学生には少し時間をあげて下さい。もし、どうしても反応できない学生がいた場合、他の学生と同じやり取りをしたあと、再びその学生に質問するということもできます。

 

使用する単語については既習単語は自由に使って下さい。そのレッスンで出てくる新出単語は会話のあとの新出単語確認後は自由に使ってください。まだ勉強していないと思われる単語は、英語で意味をすばやく言えば分かる程度の単語(ほとんどは名詞に限る)であれば、導入してもかまいません。もし、説明がないと理解できないような場合はその単語は使わないで下さい。)

 

また、一つの質問や指示を出して学生が答えられなかったら、やさしい言い方に言いなおしてみてください。

(例)
「会社訪問」というのは何か知っていますか。 → 「会社訪問」というのは何ですか。
~さんは「会社訪問」したことがありますか。 →  ~さんは会社訪問しましたか/会社訪問していますか/時々、会社訪問しますか。

2.

エラーについて

 

学生が文法や語彙の間違いをした場合(例:日本の会社働きたいです)、次のような対応の仕方があります。

  1. 一度目は、単に正しい表現を使った文で確認する。(例:「~さんは日本の会社働きたいんですね?」)学生に言い直しをさせなくてもよい。

  2. 何度も同じ間違いが出てくる場合は、学生の発言が終わった直後に、「日本の会社...」と途中まで言って、あとを穴埋めさせる

  3. それでも間違いが修正されない場合は、「日本の会社 particle 働きたいです---particle はなんですか」と直接聞く。(あるいは「日本の会社」は place of activityですね。particleは?というふうに聞いてみる)

上の例のように文法用語に関しては英語でしか説明していないので、particleとか、place of activityとかいう表現をできるだけ短く英語で挿入して言うことはかまいません。

3.

アクトクラスの進行モデル

  1. 始めの挨拶、スモールトーク(天気、最近のできごとなど)

  2. 会話のロールプレイ(複雑な会話の場合は先生が手本を示してから、学生にやらせる)

  3. 新出単語の確認、既習関連単語の復習(口頭で素早く行う)

  4. 応用練習:会話に含まれている新しい文法項目の典型的な導入ステップ 。(以下のやり方は時間がかかるので、 状況に応じて、ステップを省略したり、一巡しないうちに次のステップに入ることは可能。5はできるだけ毎回行う。)

    1. 場面設定(絵、写真などがあれば、それを利用してできるだけ手早く行う)
    2. 目的表現を含んだ話者A、Bのやり取りを先生が見せる。
    3. 先生がAをやり、学生にBをやらせる。(私はAです。~さんはBさんです。)
    4. 一巡したら、役を入れ替え、先生がB、学生がAをする。
    5. 学生同士でやり取りをやらせる。

  5. 次の会話のロールプレイ(2~4の繰り返し)

  6. 次のクラスの指示(宿題、次回の会話の役決めなど)

成功の秘訣はいかに場面設定をわかりやすく手早く行うかということです。できれば、視覚教材(絵、表、写真、小物など)を使って行うことが理想です。(例:家族の話をするとき、ある家族の家系図を見せながら行う。)ひととおり終わったあとで、実生活上の質問に切り替えてやり取りしてもかまいません。(例:「~さんのお父さんは、どんな仕事をしていますか。」)

4.

最初のアクトクラスの前に

 

最初のアクトクラスに来る前に学生に次の指示を(日本語・英語両方で)出しておいてください。(英語文はシラバスの中にも書いてあります。)

アクトのクラスに来る前に、その日の会話を全部おぼえてきてください。クラスでは教科書を見てはいけません。~さんは、会話1Aの「~さん」のラインをおぼえてきてください。(他の学生も役を決める)

 

Before coming to ACT class, you are expected to be thoroughly familiar with the assigned conversations, and be able to perform one of the speakers in the conversation without looking at the textbook. If you don't know which speaker to perform in ACT class, make sure to ask your instructor.

5.

評価について

 

各アクトのクラスのあと、学生の「パフォーマンス」に基づき、一人一人に最高10ポイントで評価点を出します。(下記は英語のシラバスと同じです)。まず、学生が覚えてきた会話のロールプレイの出来具合で最高9ポイントまでの点をつけます。(先生の印象点でも結構です。覚えられない場合は、どこかにメモしておいてください。)

  • 9.0+ = 全くネイティブスピーカーと変わらない会話ができ、しぐさや表情も的確だった。
  • 8.5 = かなり正確なイントネーションと発音でスムーズに会話ができた。
  • 8.0 = 会話文に小さな間違いがあったりしながらも、一応最後まで言えた。
  • 7.5 = 会話文を覚えようとした努力は見られるが、つまり気味で、間違いが目立った。
  • 7.0 = 会話文をほとんど覚えていない。(出席点です。)

会話のロールプレイのあと、応用練習のパフォーマンスがよければ、さらに最高1ポイントまで上乗せして、その学生のアクトの評価とします。たとえ、応用練習中のパフォーマンスが完璧でも、会話文を覚えてこなかった学生は8 (=7.0+1)以上の評価をもらうことはできません。

6.

FAQ

 

Q: クラス全体で先生の手本に続いてリピートさせますか。
A: クラス全体でリピートさせるのは、時間に限りがあるときだけ行います。できるだけ、先生と学生が一対一でやり取りする機会を増やすのが理想です。


Q: 小グループに分けて、学生同士で練習させてもいいですか。
A: 小グループでの学生同士の練習は、注意が必要です。先生の目が行き届きにくいので、目的表現を充分に練習しないグループがあったり、まちがいを直さないまま終わってしまうグループがあったり、グループの中のリーダー格の学生ばかりが発言したりすることがあります。小グループ作業のあとは必ず、まとめとして、何らかの確認作業(グループの代表に発表させるなど)をして下さい。
Q: 各レッスンの仕上げとして、学生同士でロールプレイを作成して発表させてもいいですか。
A: とてもいいと思います。ただ、ロールプレイ作成作業は宿題としてクラスの時間外で行なわせてください。中にはジョークに走りすぎたり、興味本位になりすぎて、他の学生が知らない単語を多用したり、複雑怪奇な会話になったりすることもあるので、内容は現実に起こりうる会話で、できるだけ学習した言葉の範囲内で作るように指示しておいてください。
Q: 教科書で紹介されたビジネス用語をすべて定着させる必要がありますか。
A: できればそうしたいのですが、現実にはすべて定着させることは無理でしょう。会話文に出てくる言葉や表現に関しては、できるだけ実際に使えるところまで持っていきたいのですが、それ以外の言葉や表現は認識するだけで、実際に使えなくてもいいということにしたいと思います。
Q: 教科書の中にある練習問題はすべてアクトクラスで行なったほうがいいでしょうか。
A: 先生の裁量におまかせします。アクトクラスで利用できるものがあれば、使ってください。また、一部は宿題としてやらせることも可能です。
Q: 教科書の各レッスンの最後にある聞き取りは必須ですか。
A: 聞き取りは基本的に宿題として行なうことを考えています。これはインターネット上でアクセスできる形になっているので、ラボの時間などがあれば、その間に行なうことも可能です。